WORKS

Vol.20

意匠・プランニング

香月メディカルビル

2021/08/16

ビルのフロアがテラスに変わる。

さすがに床の形状を変更するのは難しい——そう思いこまれていたオフィスビルも、意外にプランが更新できて、用途変更・イメージ一新が可能になります。たとえば、近年ビルの屋外空間が注目されその価値が再評価されていますが、既存ビルにはなかなかそのような空間はありません。しかしここでは最上階フロアの一部を屋外化し、テラスをしつらえました。建物の性格を転換して、新しい使い方を生み出す方法があります。ここでは、慌ただしいビジネスの舞台であるオフィスを、命を育む産婦人科医院へと変えました。大胆なプランの更新ですが、合理的なアイディア。カタいオフィスを柔軟にリノベーションするテクニックが詰まっています。

9階テラス全景。コーナーのカーテンウォールが上空の風を防ぎ、快適性を高める。

耐震性向上のための減築が、屋外空間を生んだ

通いやすい産婦人科医院を目指して、まちなかのオフィスの活用を考えました。1棟まるごと医院としてのリノベーションです。その際、耐震性向上のために部分的に減築をしました。シャフトまわりの壁増し打ち補強などの耐震補強を行うだけでなく、ビルそのものを軽量化して、躯体への負担を軽減するという選択です。まずは、塔屋の目隠しとして載せられていたPCパネルを撤去しました。さらに、既存ビルのアクセントだったコーナーのギザギザ部分も、最上階から最下階まで文字通り「切り落とし」重量を大きく軽減。そしてもうひとつ、屋上スラブの一部を撤去したのですが、そのことで、9階には大きな屋外テラスが生まれました。減築による新たな空間の創出です。働く場をメディカルな空間へと変えるとき、日差しや風が感じられる屋外テラスは大きな役割を果たします。柱、梁はそのまま、構造を変えないことで工事規模を抑制。最小限の操作から、最大限の建築のリポジショニングを実現しています。

改修前(左)と改修後(右)の9階平面図。屋根スラブを部分的に解体撤去した。

改修後の香月メディカルビル外観

屋外化にともなう床防水とフロアレベルの関係

それまで室内だった既存スラブを屋外に引き出すため、不可欠なのは床防水と下階の断熱。特に防水層はスラブの上に設けなくてはなりません。その分、テラスの床レベルは上がってしまいますが、病院施設としてのバリアフリーを考慮して、それに合わせるように室内フロア全域のレベルを上げ、室内外の床高を揃えることに。フロア、テラスを囲むゾーンにはキッチンなども配置するので、床下配管を設ける意味でも、この150mmの床面アップは合理的です。エレベーターホールだけは既存レベルのまま、スロープで連続させています。
テラスに隣接するスタジオはマタニティヨガ、コンサート、大型スクリーンでの上映など、テラスと一体となったさまざまな利用がなされ、メディカル施設としてのホスピタリティ向上に一役買っています。近年、新たな働き方やワークプレイスのつくり方、健康や安心安全などの多様な観点から、屋外空間が注目され、その価値が見直されています。既存のビルでも、減築や防水のテクニックで、「屋外を取り入れたフロア」を編み出せるのです。

9階テラス断面図。テラスとの段差がないため、屋内空間と一体的に利用できる。

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