WORKS

Vol.25

環境

JAPAN SPORT OLYMPIC SQUARE──波形スリットルーバー

2023/5/11

遮光と採光をコントロールする建築外皮。

外壁を含む室内外の境界面、つまり建築外皮の環境性能を向上させる技術には、いま大きな注目が集まっています。エネルギーを消費しながら強制的に環境を整えるのではなく、壁自体に環境を整える力をもたせようという考え方です。なかでも、ルーバーによる日射遮蔽は顕著な例。しかしより多くの熱線を遮蔽するほど、より自然光からの照度が得られなくなるというジレンマがありました。この課題を、ルーバーの形状を工夫することで解決したのが、波形スリットルーバーです。外観の意匠そのものが環境性能を上げてゆく技術を複合ビルで実現しました。

東側外観。緩やかな外形のカーブに沿って角度を振ったルーバーが並ぶ、
ゆらぎを感じさせるデザイン

北北東側から見た外観。
北面のガラスカーテンウォールは
ねじり上がるような上昇感ある形状


採光する遮光ルーバーのデザイン

JAPAN SPORT OLYMPIC SQUAREは南北に長く、東西両面に大きな外壁が立ち上がっているビルです。どちらの面も全面ガラスのカーテンウォールで構成しつつ、遮光性を上げるためのルーバー設置を検討しました。太陽高度が上がるにつれて壁面に対する角度が浅くなる、東面、西面に設置するルーバーは縦ルーバーが効果的。ここでもまず縦ルーバーが採用されます。しかしすべての日射を跳ね返してしまうと室内に充分な採光ができず、人工照明への依存が高まります。そこでルーバーの面にスリットを設けて、自然光を採り入れました。直射日光は反射しながら、スリットに反射した光を間接光として採り入れ、ルーバー裏面の輝度を上げる。ルーバーの形状デザインだけで、光をコントロールする性能を建築外皮にもたせているのです。

内部から見たルーバー。
波形のスリットの孔の中で光が拡散し、
内部に見える面の輝度を高めている

小型のルーバーは眺望を阻害するため、
1枚あたりのサイズは400×3850mmと大型になっている

断面形状のシミュレーション

スリットは流れと動きを感じるゆるやかな波形形状。運動競技関連団体の本部施設として「スポーツ」の動きを表現し、外観の印象を決定づける重要な意匠ポイントですが、同時に環境性能を向上させる技術でもあります。このスリットの形状は、太陽の動きをパラメータとしながら、何度も光の反射をシミュレーションし、スタディを繰り返して得られました。スリットはゆるやかに広く狭く変化し波動するのですが、幅を広げ過ぎると光が漏れ、狭すぎると取り込む光量が不足します。切り抜く角度によってもそれは変わり、1年365日の太陽のプロファイル角を入力しながら、形状の最適化を図りました。

もちろんルーバー自体の幅、取り付け角度、取付け間隔も、採光に関して定量的にスタディしています。さらに室内から見る景色を極力阻害しないよう外向きの視線を充分確保できるような、身体性も含めて判断し、外観デザインを決定してゆきました。

ルーバーの素材はGRC(ガラス強化繊維コンクリート)。複雑な形状は、金型にGRCを流し込んで成形されます。

アイディア段階のスケッチ。これをもとに、直射日光を遮りつつ光を取り込む角度をGrasshopper®︎を用いて検証した

年間の太陽高度情報から、
ファサードに日光が当たっている時間を算出し、
スリットの有無を比較した解析結果。
スリットを設けることで、
室内側のルーバー面の輝度がスリットなしに比べて
1.8~3.3倍になることがわかった

ルーバーの型枠(左)と完成したルーバー(右)。
造形性に優れ、軽量なGRC(ガラス繊維強化セメント)で制作された

[特許登録] 登録番号——特許第7270492号

JAPAN SPORT OLYMPIC SQUAREのプロジェクト紹介は当社HPをご覧ください。

本ルーバーに関する特許情報は、こちらをご覧ください。(特許情報プラットフォーム/J-PlatPatへアクセスします)

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