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光・風・温度を空間全体に届ける 成徳幼稚園

光・風・温度を空間全体に届ける

「子どもの『教育環境』と周辺住民の『生活環境』を一体的にとらえること」を大切にした、都内住宅地における幼稚園の建て替え計画です。保育室は角に柱や壁がない開放的なつくりとし、各室はずらして配置することにより、子どもたちが周囲との多様なつながりを感じられる空間を目指しました。

外観全景。角部を開放した見通しのよい平面計画とし、建物・敷地の内外を視覚的につなぎ合わせています。

こうした「開いた角と配置のずれ」という空間的特徴を活かし、子どもたちにとって重要な光・風を空間全体に届けるパッシブ設計と、ドラフト感が少なく開放的で心地よい活動環境を構築するために、床放射冷暖房を採用し温度・快適環境を隅々まで届けるアクティブ設計に取り組みました。本稿では、これらの空調計画を詳しく紹介します。

1~2階間の吹き抜け(左 )と断面環境ダイアグラム(右)。保育室を細かく区画せず共用部と一体的にすることで、建物内全体を空気が循環します。

2階廊下から保育室、吹き抜けを見る(左) 。「角」と「ずれ」を活かした採光・通風計画としています(右)。

子どもの快適な空間を空調からつくる

子どもたちの居住域は大人よりも低い位置にあるため、足元から空調を行うことが最も快適性を高めます。「床暖房を入れたい」というクライアントからの要望を受け、床暖房だけではなく床冷房も導入すれば、天井高を高く保った開放的な園舎にできます、と提案し、全保育室への採用が決まりました。
「成徳幼稚園」では、空気式床放射冷暖房※1を採用しています。床下にダクトを展開し、下方から床面に空調空気を当て、窓際に設けた床開口からその空気を滲み出させるこの方式は、ドラフト感を抑えつつ、放射効果だけではなく対流効果も得られるのがよいところです。また、ダクトを展開するには、各室の構造壁に開口を設ける必要があります。床下ダクト用の開口と保育室の小窓は位置を揃え、建物の強度低下を最小限に抑えました。

保育室と保育室の間に設けられた、天井裏に空調機を配したスペース「遊びの基地」。構造体として利用できない床下ダクト直上の壁には小窓を設けました。

実験・実測による効果検証・実際に運用してみて

空気式床放射冷暖房の良さをしっかりと確認したかったため、メーカーには実験、体感会を何度か開催するといったご協力をいただきました。設計段階では、クライアント同席のもと、本方式特有の「室全体から届く『ひんやり感』や『じんわり感』」などの効果や、運転中も床面が結露しないこと、といった懸念点を確認し、現場段階では、床吹出口の形状を変えたことによる風速・静圧や、床材を変えたことによる暖房時の乾燥収縮の挙動検証など、数々の実験・実測を行うことで、快適な空間ができ上がりました。

左:空気式床放射冷暖房の施工の様子。 右上:床面温度のコンター図。床面全体が冷えていることがわかります。右下:実際に横になって性能を体感。全身がひんやり気持ちいい!

竣工後、クライアントから、「保護者の方々へ向けた見学会などでは必ず空調について説明している」というお話を聞けたときはとてもうれしかったです。数々の工夫を重ねて実現した「成徳幼稚園」にしかない快適な空間に満足いただけて本当に良かったと思います。

  1. ※1 三洋工業 輻射式冷暖床システム「エア・フロア」

Designer's Voice

[ 設計者 ]

機械設備設計部(2018年入社)

黄 雄明Ko Yumei

入社して初めての主担当物件が「成徳幼稚園」でした。他職能の設計主担当も全員同期だったこともあり、大変思い入れのある建物です。右も左もわからない状態から始めたプロジェクトでしたが、社内はもちろん、クライアント・施工者・メーカーの皆さまには、さまざまなことを教えていただきながら進めることができました。本当にありがとうございました。
※所属はプロジェクト担当時点

Data

物件名 成徳幼稚園
所在地 東京都北区豊島8-24-2
敷地面積 約1,892m²
延床面積 約1,499m²
規模 地上3階
構造 RC造
竣工 2022年1月
主要用途 幼稚園
設計・監理 三菱地所設計
施工 フジタ
受賞 第16回キッズデザイン賞
2023年度グッドデザイン賞
iF DESIGN AWARD 2023

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