FACILITIES COLUMN

都市を支える
「設備」からの仕掛け 大手町センター & Otemachi Oneサブプラント / 再開発に伴うDHCプラント移転

既存の地域冷暖房を止めずに再開発を成り立たせる

エリアのエネルギーネットワークを支える地域冷暖房施設/DHC(District Heating and Cooling)プラント。その熱供給機能は、供給エリア内で再開発が行われたり、プラントそのものが更新されている最中においても滞らせるわけにはいきません。
こうした中、「《大手町エリア全体へ熱供給を行うDHCプラントと供給地域配管》そのものを地下に擁する敷地で再開発を行うには?」という相談を受けて始まったのが、ここで紹介する「Otemachi One」プロジェクトです。

再開発敷地内にある、解体が予定されていたビルの屋上には、冷却塔等のプラント設備が設置されていました。まずは、その機能を停止させることなく移動しなければなりません。そこで、敷地の一角に仮設冷却塔を新設し、ビルの中にあった配管を外に繰り出して接続を切り替え、ビルとプラントを切り離しビルを解体可能な状態にして、再開発の準備を整えていきました。

「Otemachi One」全景。中央「三井物産ビル」手前の緑地の地下に、「旧大手町センター」がありました。

「Otemachi One」の再開発に含まれる「大手町センター」と「Otemachi Oneサブプラント」のエネルギー供給エリア。大手町エリア全体にネットワークが張り巡らされていることが分かります。

会社全体の「パッケージ力」を束ねて高効率プラントを実現

上記のようにスタートした「Otemachi One」の再開発ですが、ここでは約45年にわたって使われてきた既存DHCプラント「旧大手町センター」の機能更新も同時に図られました。

■1974年から2020年まで、約45年間にわたり運用されていた旧大手町センター

写真2点:「丸の内100年のあゆみ 三菱地所社史(下)」
1993年、p.220

高密度市街地として大気汚染防止に大きな効果が期待できることから地域一体でのDHC実現が進められました。プラントやトンネル配管工事の設計監理は、当社(当時、三菱地所)が担当しました。

「DHCプラントの設計」というと、大きな再開発のほんの一端のようですが、その構築計画を成立させないと、開発そのものが立ち行かなくなってしまう重要な役目を担います。そこで、工事手順やスケジュール、構造、法令対応や産廃処理まで、当社の都市環境計画部、工務部、構造設計部などの協力を得て、「こうすればできます」という三菱地所設計としての提案を事業関係者に示していきました。
他社の場合、土木や監理が別会社となっていることがありますが、当社はこうした関係者も社内にいるのが強み。この「パッケージ力」を活かし、関係各社と信頼関係を構築し、業務を進めることができました。

「大手町センター」。8台のボイラーと6台の冷凍機からなります。※

仮設冷却塔の設置に始まり、地域配管切り替えによるプラント設備の切り離し、既存ビル解体を経て、再開発ビルの建設に合わせて、敷地内に最新機器を備えた「大手町センター」と「Otemachi Oneサブプラント」が基本構想を含めて約10年近い歳月をかけて誕生しました。

1系統も供給を止めることなく新設プラントへの切り替えも行われ、今日に至っています。ここで導入された冷凍機には、現在も運用段階での効率向上を目ざして関わり続けていますが、製造熱量・効率面で、他プラントに比べ非常に高いスコアを記録しています。

Designer's Voice

[ 設計者 ]

都市エネルギー計画部(2002年入社)

西 師和Morokazu Nishi

本エントリーの執筆者である西師和さんに、DHCプラントの設計における考え方や将来の展望、一連の業務を担う三菱地所設計の都市エネルギー計画部について聞きました。

プラント構築の「長い射程」

── エリアのエネルギーマネジメントに関する設計は、実は当社の「得意領域」です。大手町や丸の内、みなとみらい21地区をはじめ、長い歴史と実績があります。都市を支えるインフラであるDHCの機能更新は、今日どのような考え方に基づき行われるのでしょうか?

冷水・蒸気・温水供給を担っているDHCシステムですが、その創成期(1970年代前半)にまで遡ると、そもそもは「蒸気配管網」として暖房を主とした熱供給を行うものでした。「Otemachi One」に程近い、当社の設計による「大手町ビル」(1958年竣工)の古い図面を見ると、当時は石炭を焚いて暖房していたことが分かるのですが、これが公害への取り組みである大気汚染防止法で禁止され、都市ガスを用いるDHCが構築されるようになった、という変化に始まっています。

今日、私たちがDHC関連の仕事をする上でも、こうした歴史に違わず環境配慮は重要なトピックですが、その変化はどんどん早くなっています。「Otemachi One」の設計当時(2010年代)に求められていたのは「省エネ」でしたが、その後わずか数年で「脱炭素/カーボンニュートラル」にまで振り切っています。 冷凍機もボイラーも基本的に各プラント工事に応じた一品受注生産で、ひとたび導入されれば長い場合には30年ほどこれらが使われたりするなど、「小回りが利く」とは言えないDHCプラントにおいては、今この瞬間にエネルギーの良し悪しを見定め、取捨選択することは困難です。電気も使うけどガスも上手く使う…といった具合に、現代の社会的要求に応えつつ、その先で「2050年にはどうなっているのか」といった中長期的な目線を持って、設計に取り組まねばなりません。

「Otemachi Oneサブプラント」。ヒートポンプと6台の冷凍機からなります。※

設備からアプローチする都市と将来

── 「DHC=《地域》冷暖房」とあるように、建物単体レベルを超え、より広域のものとしてエネルギーを取り扱うことは、まさに今日のスマートシティの考え方や、そこでの領域横断的な取り組みにつながってくるものではないでしょうか?

こうした業務に携わるのが、私が属する都市エネルギー計画部です。都市計画の策定などに携わる都市マネジメント計画部とともに、開発のさらに上流から計画に携わることもあります。職能上は「機械」という位置づけではあるものの、かなり手広く活動しているので、「都市計画に携わりたい」という人が、設備設計を一種のツールとしてエネルギー面から都市にコミットする、そんなことも可能な部署ではないかと思います。

これからは、長年にわたり培ってきたノウハウをどう展開するかが問われる時代。例えばコンパクトシティのような高密度な再開発では、DHCは大いに活用できるはずです。 再開発計画の更に上流に食い込み、「エネルギーの面的利用を図ろう、こんなインセンティブをつけよう」と戦略を立て、方向性を定めてガイドライン化し、行政などに働きかける……。これは本来、都市計画や不動産開発の人たちが得意にする分野だと思いますが、私の経験上、実はこういう仕掛けを設備設計者がやっていくこともできると感じています。

今後の脱炭素社会、水素社会の実現、など、社会全体まで射程を広げて考えていく。「設備」という立場から、日々こうした現代の課題に取り組んでいます。

大手町・丸の内・有楽町エリアの地面の下には、
『SUPER TUBE』と称される地下洞道・供給配管ネットワークが張り巡らされています。
※写真3点提供:丸の内熱供給株式会社