DISCUSSION

Vol.14

山下裕子 ひと・ネットワーククリエイター、広場ニスト
稼働率100%の公共空間のつくり方
――― 広場的空間の研究vol.2[前編]

2019/9/11

今、ようやく日本でも進みつつある広場的空間の有効利用。そのトップランナーをお招きする「広場的空間の使い方」シリーズ、第2回のゲストは、地方都市のまちなかに「にぎわい」を創出した成功事例として全国から注目を集める富山市「グランドプラザ」の仕掛け人として知られ、ひと・ネットワーククリエイター、広場ニストという肩書きで全国的に活動されている山下裕子さんです。

Qオープンから12年を迎えようとしている公設民営の全天候型広場「グランドプラザ」は、年間100件以上のイベントが開催され、普段も市民の憩いの場になっているそうですね。2012年の第13回公共建築賞(生活施設部門)も受賞されています。

A : いきなり「稼働率100%」と強気なタイトルをつけましたが、私は、広場はイベントのない平常時の使われ方こそが成功の鍵だと考えています。「富山市まちなか賑わい広場 グランドプラザ」[スライド1]は、平日も休日も、朝も昼も夜も、晴れでも雨の日でも人がいます。人がいる限り広場は稼働している、つまり「稼働率100%」と言い切ってもいいのではないかと。これは、2013年に出版した本のサブタイトルでもあります。グランドプラザは、2007年9月、富山市による再開発事業によって誕生した「まちなか広場」です。2005年に市町村合併した富山市は、人口42万人という都市規模の割には再開発事業が大変盛んです。市税の約半分を固定資産税・都市計画税が占め、そのうち22.5%が面積わずか0.4%の中心市街地によるもの。中心市街地の活性化に集中投資し、活発な経済活動を促進するための再開発事業でした。また、富山市は市町村合併を機に、持続可能なコンパクトシティを目指す「くしとだんご」のまちづくりに取り組んでいます。家や店などが集中する場所(だんご)を公共交通(くし)でつなぐというもので、旧市町村の中心部を含めた14の拠点の整備と、それぞれの拠点を結ぶ公共交通の活性化を実施。富山県は、世帯当たりの乗用車保有台数全国1位2位を福井県と争っているほどの車社会で、以前は公共交通が衰退の一途をたどっていましたが、次世代型路面電車(LRT)の導入、既存の市電・路線バス・鉄道の再ネットワーク化によって、公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりが進んでいます。そのど真ん中とも言える商店街、総曲輪そうがわにグランドプラザはあります。百貨店ビルと駐車場ビルを建てる再開発事業で生まれた幅21m×奥行き65m、1400平米に及ぶ都市空地に、雨や雪をしのぐガラス屋根を架け、「広場」にしたものです[スライド2-5]。グランドプラザの「稼働率」が高いのにはいくつかのポイントがありますが、①まちなかの超一等地を「広場」にしたことと、②屋根をかけたこと、このハード面に関する2点は成功につながるスタートラインになったと思います。普段の設備はテーブルとイスが100席ほど出しっ放しにしてあり、277インチの大型ビジョンがあるだけ。基本的には何もない空間なので、広場がメインの目的地になることはまずありませんが、老舗百貨店と巨大な駐車場という2つの必要活動施設の間にあることで、さまざまな人の通過点となります。まずはこの広場が、2つの建物をつなぎ、雨や雪をしのげる「通路」であったことがポイントなのです[スライド6]。当初は百貨店ビルと駐車場を隣接させ、広場はバックヤード的に整備する計画だったそうですが、そうなっていたら、今日私はこの場にいなかったと思います(笑)。

また、稼働率を高めようとする場合、土日のことばかりを考えがちですが、デンマークの建築家であり都市デザイナーのヤン・ゲールが定義した「にぎわい=滞在人数×滞在時間」とすると、週に2日間しかない土日よりも5日間ある平日の利用者を増やすことは非常に有効です。では、平日日中に広場に滞在できるのは誰か?と考えてみると、それは未就学児を持つ親や高齢者、いわゆる交通弱者にあたる人たちです。その点においても、ここは地域の「要」となる交通結節点で、車だけでなく公共交通でもアクセスしやすい立地です。LRTの駅が目の前にあります。誰もが行きたい時に行ける、公共交通×公共広場の組み合わせが重要なのです。

[スライド1]富山市まちなか賑わい広場 グランドプラザ(開業:2007年/設計:日本設計/広場サイズ:約65m×約21m)

左上[スライド2]開発前の敷地状況 右上[スライド3]開発後の敷地状況
左下[スライド4]開発前の市道①  右下[スライド5]同開発後。再開発事業によるセットバック、市道の付け替えにより生まれた都市空地

[スライド6]2つの必要活動施設をつなぐ通路を広場にする。そして広場は単体では機能せず、内と外をつなぐ空間であるため、お互いのコンテンツをにじみだし合うのが大切。境界となる壁面のあり方が重要となる

Qソフト面における成功の秘訣を教えてください。

A : 大きくは2点、③なるべく自由な「広場」にすることと、④使用料をきちんと徴収するということです。開業から2年半の間は、市の直営として運営の社会実験を行いました。グランドプラザは公園でも道路でもありません。付け替えた市道を含んでいますが道路指定を解除し、新たな条例をつくって管理しています。その「富山市まちなか賑わい広場条例」もなるべく禁止条項を設けず、できるだけ自由にしています。使用時間は原則10時から22時までですが、年中無休、24時間使用可能です。中心市街地の活性化にとって良いと思うことには、限りなく柔軟に対応します。最初は事務所スタッフも3名だったのですが、名称は「グランドプラザ管理事務所」ではなく「グランドプラザ運営事務所」とし、利用者が主体的にルールをつくっていくことを見守る姿勢でした。実はオープンの翌年、2008年の秋にリーマン・ショックがあり、まち全体から活気が消えかかっていたことがありました。その逆境の中で、市民にとって、まちにとってどのような広場であるべきか、そして少ないスタッフでどう運営するか、役所の方や事務所スタッフなどでトコトン話し合う機会があったのも功を奏したのだと思います。今でも使っているキャッチコピー「うれしいヒトと出会う場所。楽しいコトと出会う場所」は、その時に4時間以上かけて自分たちで考えたものです。

使用料金は、広場全体または半分を専用してイベントを行う「専用使用」の場合、平日の「半面」4時間使用で3万6,000円、休日の「全面」終日使用で20万円。この金額設定は地方としては高額と感じるかもしれませんが、20万円は個人でも想像できる金額です。何より使用料を払える催事者は、集客能力がある。これも稼働率を上げるポイントのひとつです。ちなみに、ストリートライブ、移動販売車等などの「行為使用」の場合は、平日の4時間使用で1,200円、休日の全日使用で5,000円です。使用料収入目標である1,300万円は毎年クリアしており、開業10年目には1,600万円を達成したと聞いています[スライド7]。

[スライド7]グランドプラザの運営サイクル。まちのにぎわいの核、まち歩きの拠点、まちの情報発信基地になる広場は、継続性がある


[スライド1〜7:グランドプラザ事務所提供]

山下裕子/ひと・ネットワーククリエイター、広場ニスト

PROFILE:やました・ゆうこ/1974年生まれ。全国まちなか広場研究会理事、NPO法人GPネットワーク理事。1999年富山に移住し、演劇やアート関連イベントの企画制作に携わる。2007年よりグランドプラザ運営事務所勤務。2009年一般財団法人地域活性化センター第21期全国地域リーダー養成塾修了。2010年より株式会社まちづくりとやまグランドプラザ担当。2011年よりNPO法人GPネットワーク理事。2014年より広場ニストとして独立。その後、八戸・豊田・泉北・神戸・明石・久留米をはじめとする全国のまちなか広場づくりに関わる。著書に『にぎわいの場 富山グランドプラザ 稼働率100%の公共空間のつくり方』(学芸出版社/2013年)。

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