DISCUSSION

Vol.48

上田 信行 同志社女子大学名誉教授、ネオミュージアム館長
世界は可能性に満ち溢れている
―― プレイフルに知覚し、アクションを起こそう! [前編]

2023/07/13

Q近年、学校だけでなく社会においても「学び」のあり方が大きく変化しています。今、私たちにどんな能力が求められているのでしょうか。

A : 1人ひとりが「ラーニングデザイナー」になることだと思います。つまり、自ら学びをデザインし、学び続けるということです。

僕は同志社女子大学の現代社会学部現代こども学科という、子どもと社会との関係を多視点から研究する学際的な学科で、「ラーニングデザイン」を専門にしてきました。自律したラーニングデザイナーになるには2つの要素、「プレイフル・スピリット」と「リフレクティブ・インテリジェンス」が必要だと考えています。僕はプレイフルを「物事に真剣に取り組んでいるときに湧き起こるドキドキワクワク感」と定義しています。物事に夢中になり、どんどん前に進めていくアティチュードですね。「遊び」と「学び」は別のことだと捉えられがちですが、実は、遊びは学びに溢れています。僕は「プレイフル・ラーニング(ワクワクして夢中になる学び)」という概念を掲げ、学びの新しいヴィジョンを模索し続けてきました。「リフレクティブ・インテリジェンス」は直訳すると「省察する知性」。自分の体験を振り返り、その体験を再構成することによって新しい意味をつくり出す力です。

「プレイフル・スピリット」で夢中になって物事をどんどん進め、「リフレクティブ・インテリジェンス」で時に立ち止まって省察し、修正して、さらに前に進む。この両輪のバランスが、子どもだけでなく僕たち大人にも、全ての人が自律したラーニングデザイナーになるために必要です。一生涯学び続けるという意味で、「ラーン」ではなく「ラーニング」デザイナーであるというわけです。

Q学びに「プレイフル・スピリット」と「リフレクティブ・インテリジェンス」の要素を取り入れると、どう展開するのでしょうか。

A : プレイフル・スピリットとリフレクティブ・インテリジェンスの両方が循環するようなワークショップを2つご紹介します。 1つ目は、親子でパラパラ漫画をつくるワークショップです[写真1]。親子で全身ポーズをとって写真を撮り、その写真を壁面のボードに投影します。影に沿って大きなレゴブロックを置いていくのですが、近づいて作業をしていると全体像が見えないので俯瞰する必要が出てきます。ボードに近づいたり離れたり。親子で話し合いながら、ポーズの動きにあわせてレゴブロックを少しずつ動かし、パラパラ漫画を完成させます[写真2]。一見、ただの遊びに見えますが、没頭と俯瞰を繰り返し、作品と対話する中で出来上がっていきます。この創造的想像性を刺激する「遊び∩学び」を、「ラーニングフル・プレイ(学びにあふれた遊び)」あるいは「コンストラクショニスト・ラーニング(構築主義的な学び)」と呼んでいます。

2つ目は、小学生が仲間とストップモーション・アニメーションをつくるワークショップです。小学校では2020年度からプログラミング教育が必修化されましたが、このワークショップでは、個々人がPCに向かって黙々と作業するのではなく、チームでアニメーションをつくり上げる中で、メタ認知の重要性やプログラミング的思考を体験的に学ぶというものです。つくったアニメーションをテストすると、最初は大抵、思ったように動かない。どこが問題かをチームで検討し、やり直してみる。まだ思うように動かない。どうすればいいのだろうかと考える。みんな夢中になって試行錯誤します。このリアルタイムでの繰り返しこそが、プログラミング学習に必要です。「初めからうまくいくはずがない」という、新しい常識をみんなで体験し、デバッキング(修正)しながらゴールにたどり着くことを学ぶのがプログラミングの教育的意義だと思っています。

昨今、設計図通り進めるのではなく、さまざまな現象や素材、道具をいじくりまわしながらつくる「ティンカリング(tinkering)」という概念が注目されています。手と目と心を連動させるプロセスの中で、あっ!とアイデアが閃き、目指すべきパーパスが立ち現れてくる。「面白がって、巻き込まれて、ハマる」というティンカリング・プロセスを通して、新しいアイデアが生まれてくるのです。

[写真1]家族の写真に沿ってブロックを置いてできたパラパラ漫画

[写真2]ブロックを置くことと俯瞰することを繰り返す

[写真1・2:上田信行氏提供]

上田 信行/同志社女子大学名誉教授、ネオミュージアム館長

PROFILE:うえだ・のぶゆき/1950年奈良県生まれ。同志社大学卒業後、『セサミストリート』に触発され、セントラルミシガン大学大学院にてM.A.、ハーバード大学教育大学院にてEd.M., Ed.D.取得。1996〜1997年、ハーバード大学教育大学院客員研究員。2010〜2011年、MITメディアラボ客員教授。専門は教育工学。プレイフル・ラーニングをキーワードに、学習環境デザインとメディア教育の先進的な研究をおこなっている。著書に『プレイフル・シンキング:仕事を楽しくする思考法』(宣伝会議)、『協同と表現のワークショップ:学びのための環境のデザイン』 (東信堂、共編著)など。

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